next up previous contents
Next: 「ク」久 玖  [濁音] 具 Up: 假字[カナ]の事 三十〜四十三葉 Previous: 「カ」加 迦 訶 甲

「キ」伎 紀 貴 幾 吉  [清濁通用] 岐  [濁音] 藝 疑 棄

此ノ中に、伎ノ字と岐ノ字との間(アヒダ)に、疑はしきことあり。 上卷の初(ハジメ)つかたしばしがほどは、清音には伎ノ字を用ひ、 岐ノ字は濁音にのみ用ひて、清濁分れたるに、後は清濁共に岐をのみ用ひて、 伎を用ひたるはたゞ、上卷八千矛ノ神ノ御歌に、伎許志弖(キコシテ)、 また那伎(ナキ)、鳴也。 中卷白檮原ノ宮ノ段に、伊須々岐伎(イスヽギヽ)、輕嶋ノ宮ノ段に迦豆伎(カヅキ)、 下卷高津ノ宮ノ段に、伊波迦伎加泥弖(イハカキカネテ)、朝倉ノ宮ノ段に由々斯伎(ユヽシキ)、これらのみなり。抑記中凡て一ツノ假字を、清濁に兼用ひたる例なきをもて思フに、本は清音の處は、終リまでみな伎ノ字なりけむを、字ノ形の似たるから、後に誤リて、みな岐に混(マギ)れつるにやあらむ。又伊邪那岐ノ命の岐字を、伎と作(カケ)る處もあり。是レはたまぎれつるなり。 されど今は定めがたければ、姑く岐をば清濁通用とあげつ。 貴ノ字は、神ノ名阿遲志貴(アヂシキ)のみなり。歌にも此字を書り。 幾ノ字は、河内の地名志幾(シキ)のみなり。大倭のはみな師木とのみかけり。 吉ノ字は、國ノ名吉備(キビ)、歌には岐備(キビ)と書り。 姓(カバネ)吉師(キシ)のみなり。 疑ノ字は、上卷に佐疑理(サギリ)、霧なり。中卷に泥疑(ネギ)三つあり。 須疑(スギ)過なり三ツあり。のみなり。 棄ノ字は、上卷に奴棄宇弖(ヌギウテ)とあるのみなり。 同じつゞきに此ノ言の今一ツあるには、奴岐(ヌギ)と書り。
next up previous contents
Next: 「ク」久 玖  [濁音] 具 Up: 假字[カナ]の事 三十〜四十三葉 Previous: 「カ」加 迦 訶 甲
若松 久仁光
2013-08-01