……私は思った、 私の眠りを魅了する得も言えぬハーモニーが聞こえると、 哀しく優しい声の、途切れ途切れの歌に似た 眩きが私の傍に拡がっていると。 シヤルル・ブリュニョー『二つの聖霊』
−−《聞いて下さい!−−聞いて下さい!−−私です、オンディーヌです、淡い月 光に照らされた響くような菱形の窓に、雫となって軽く触れているのは。波の衣裳を纏 って、星のまたたく美しい夜と、眠りについている美しい湖をバルコニーから見つめて いる水のお城のお姫さまです。 どの波も流れを泳ぐ水の精、どの流れも私のお城へうねってやって来る小径、そして 私のお城は、湖の底、火と大地と空気の織りなす三角形の中に、流れる如く建てられて います。 聞いて下さい!−−聞いて下さい!−−私の父は、緑の榛木の木枝で立ち騒ぐ水を 打ち静め、姉たちは泡の手で、草が茂り睡蓮やグラジオラスの咲く清々しい小島を愛撫 したり、釣糸を垂らしている老いて髷の生えた柳を椰楡ったりしています!》 * 水の精は囁く声で歌いながら、私に哀願するように言った、彼女の指環を私の指に受 け、オンディーヌの夫となって、湖の王としてともにその宮殿を訪れようと。 だが、私が、やがては死ぬ運命にある人間の女の方が好きだと答えると、機嫌を損ね 恨みを胸に、幾雫かの涙を流したかと思うと、突如甲高い笑い声をあげ、青い窓ガラス に白々と流れる水滴となって消え去った。